一度やると決めたら全力で楽しむ

一度やると決めたら全力で楽しむ

今回ご紹介する地域コーディネーターは、山形県鶴岡市の「合同会社 work life shift(ワークライフシフト)」の代表、伊藤麻衣子さんです。学生のキャリア教育に関わりながら、インターンシップのコーディネーターとしても活動しています。学生のサポートだけではなく、企業の組織開発や採用サポートなども行っています。
伊藤さんは「行動に移すまで散々悩むけれど、一度決めてしまったら楽しんでやってみることが、基本的なマインドですね」と話します。伊藤さんのこれまでの経験から、学生に贈りたいメッセージがたくさん見えてきました。

「人づくり」を目指して、大手企業からNPOへ転職

名古屋市出身の伊藤さんは、静岡県内の大学を卒業後、東京に本社を置く大手電機メーカーに就職しました。

「海外との取引も多く、扱う金額規模も大きい、いわゆる花形部署でした。留学で身につけた英語力を生かせる仕事だったので、とても楽しかったですね。でも、すごく忙しくて働きづくめの毎日でした。周りの同僚たちが疲弊していく姿を見て『何のために働くの?私は本当にこういう仕事がしたかったの?』と考えるようになりました。本当にしたいことは、自分がやりたいことで世の中のためになる仕事だと思ったんです」

その頃、伊藤さんは「NPO法人ETIC.」の存在を知りました。ETIC.は、社会の未来をつくる⼈を育むことを目的に活動する認定NPO法⼈です。実践型インターンシップや起業支援プログラムなどの事業を手がけ、プロジェクト参加者がプロジェクトを起こしたり、起業するなど多くの実績があることを知りました。

「これは、私がやらなくちゃ!」と思い転職を決断します。大手企業を辞めるのはもったいない、という周りの声もありましたが、自分の意思を大事にしました。

結婚、ご主人の転勤によりアメリカへ

ETIC.で働いていた伊藤さんは結婚し、ご主人の転勤によりアメリカのテキサス州で約7年暮らすことになりました。ビザの関係で仕事ができなかったため、ボランティアをしながら過ごしたそうです。

「ご主人の都合で、アメリカに“連れて来られた”奥さんがたくさんいたんです。本国では医者とか、バリバリ働いていた人も、言葉や宗教が違うことで不安になり家に閉じこもるようになっていました。まるで手足をもがれたように、自分のアイデンティティを失ってしまう。そんな人たちがたくさんいたんです。そのような人たちを近所の教会のおばちゃまたちが週に一度、託児付きのカルチャースクールを開いて助けていました。英語を学んだり、アメリカンキルトを習ったり、たった数時間でも自分の時間を持ててホッとできる場でした。コミュニティを作ることって大切だなと思いましたね」

アメリカで過ごしたのち、ご主人が山形県鶴岡市の会社に転職することを決めたため、2014年8月鶴岡に転入しました。知らない土地での生活に不安もありましたが、行ってみることにしたそうです。鶴岡市に転入後は、まちづくりを専門とする「YAMAGATA DESIGN(ヤマガタデザイン)株式会社」に勤務します。その経験を経て、2019年に「合同会社 Work Life Shift(ワークライフシフト)」を独立起業しました。

ワークライフシフトでは、学生向けの就職活動支援と、企業向けの採用支援、女性の働き方改革に取り組む企業をサポートしています。また、近頃は全国の学生向けにオンラインで仕事体験ができるプロジェクト「シゴトリップ」に地域コーディネーターとして参加しています。

学生にも企業にもメリットのある実践型プログラムを

このような仕事は大変ではありますが、インターンシップ卒業生の国内外での活躍を見聞きする度、やりがいを強く感じるそうです。

「インターンに来る学生さんって、本当に優秀でいい子が多いんです。その子たちにとって最良の経験にするために力を注いでいます。でも実は、受け入れる側の企業は大変な状況です。若者が減少しているなかで、人材育成や人材の定着など、どんな風に若い子を企業に迎え入れていいか分からずにいるんです」

学生支援だけではなく、企業側をサポートし、インターンシップ受け入れの土台を整えています。伊藤さんのこれまでの多様な経験をもとに、人が育つことに重きをおいて活動をしているそうです。

地域には、インターンシップを積極的に受け入れたいと熱意を持つ企業・社長は多いのだそう。

「鶴岡の皆さんは、しっかりインターン生を支援してくださいます。だからこそ、ここで頑張りたい、成長したい!という学生をマッチングさせたいなと思い、私も常に緊張感を持ちながら対応しています。インターン生を迎えると、そのエネルギーが地域全体に広がり、鶴岡でも新しい動きが生まれていることを実感していますから。一方で、すべての企業がインターン生をすぐ受け入れるのは難しいと思います。そのような企業にも大学生との接点をライトな形で作ることができたらいいなと思っています」

何になりたいか、ではなく「自分はどう在りたいか」を考える

地域コーディネーターとして現在活動する伊藤さんはどのような学生時代を過ごしたのでしょうか。

「学生時代に1年間イギリスに留学をしたのですが、奥ゆかしさや、言わなくても分かってもらえる日本人的な考え方が通用しないことを痛感しました。自分の気持ちを伝えなければ、理解してもらえないし、自分から動かなければ何も変わらないんです。自分が外国人としてマイノリティになる経験もあってよかったです。いつもの居心地のいい場所から飛び出してみると、世界が全く違って見えてきます」

伊藤さんは自身の経験から学生に伝えていることがあります。
“今やりたいことが分からなくてもいい、探し続ける”ことです。

「学生さんたちは『将来したいことは?』とか『何になりたい?』と、聞かれ続けていると思います。私自身を振り返ると、その時は将来どうなるかなんて決められなかった。なりたいものは変わるのが当然だから。人との出会いがあって、私は周りに育ててもらって変わってきました。だから、ありたい自分は大事にして、ちゃんと気持ちは声にしたほうがいい。そうすると出会いがあったり、応援してもらえたりするんです。“自分がどうありたいか”がないと、周りに育ててもらえなくなっちゃう。そこは大事にすること。それだけでいいと思います。

人生を楽しむために「一度乗ると決めたら全力で楽しむこと」

「行動に移すまでの迷いはあるけれど、一度決めてしまったら楽しむしかない、っていつも思っています。ジェットコースターに例えると、乗るか乗らないかを決めるのは自分ですが、一度乗ったら降りられない。一度乗ると決めたら全力で楽しむ。これが私のマインドセットです。

『チャンスの神様は前髪しかない』と言います。チャンスかも!って気づいた瞬間に行動を起こして、神様の前髪をつかまないとあっという間に通り過ぎてしまう。そして後ろ髪はないから、もうつかむことはできない。いくつかある選択に悩むかもしれません。迷ったら難しそうなことや面白そうなことを選んでみて。“どっちが正しい”と悩むより、正解・不正解は分からないことが多いのが現実です。だから勇気をもって自分で選んだ道を進んでみましょう。大きく成長できるはずです!」

「一緒に楽しみながら、成長しよう」これを教えてくれるのが、山形で活躍する伊藤さんのインターンシップです。