本気と本気を繋いでいく

本気と本気を繋いでいく

今回ご紹介するのは、岩手県ではじめて実践型インターンシップをスタートさせた「NPO法人 wiz(以下、wiz)」で、コーディネーター活動をしている八田浩希さんです。2015年にwizに入職してから、今年でコーディネーター歴は8年目となります。
「何年やっても。やればやるほど、コーディネーターの仕事は難しいと感じます」。と話す八田さん。終始クールで話す一方で、熱い想いを持って取り組んでいる様子が、言葉の節々から伝わってきました。
八田さんの活動について伺いながら、そこに秘められた強い想いを探っていきます。

経験を活かして、次のステージへ

宮城県登米市出身の八田さんは、岩手大学を卒業後、2007年4月から、大学生協事業連合東北地区に採用となり、岩手大学生協で勤務していました。学生のキャリアサポートや新入生サポート長も務め、2011年には福島へ。その後、仙台で商品バイヤーの経験も積みました。
2014年、奥様の転勤を機に岩手へ戻り、転職することを決意します。

「大学生協時代、就職してから苦しんでいる学生たちを何人も見てきました。大学生協職員の立場で、学生を支援する仕事をしてきましたが、企業側に対して、自分が働きかけることは何もできていませんでした。ちょうどその頃、福島での単身赴任を終えて、仙台で家族一緒に暮らしていた時に、妻が岩手に転勤することが決まって。そのきっかけもあって、思い切って環境を変えようと、一緒に岩手へ戻ることに決めました」。

大学生協事業連合を退職し岩手へ戻った八田さんは、今度は企業側に自分がきちんと関わっていける仕事をしてみたい。という思いが強くなり、「岩手県中小企業団体中央会」へ転職をします。若者や女性向けの就活イベントや、若手職員向けの研修の運営に携わり、興味があった企業側の支援について1年間、仕事を通じて経験することができました。

そして、あるイベントでのご縁があり、「NPO法人 wiz」へ2015年4月から所属しています。

wizは、2014年4月1日に法人として設立し、「若手のネットワークで岩手を盛り上げる」というビジョンを掲げて活動しています。
設立メンバーは、東日本大震災がきっかけで繋がり、復興支援活動をしていくなかで、「若者の流失」というのを肌に感じたそうです。

その問題を解決するべく、地方に思いを持つ若者と地方の企業を繋いでいく「インターンシップ」。岩手に行くことはできないけど、岩手を応援したい人。応援してくれる人たちと繋がる「クラウドファンディング」。など、何かしらの想いのある人同士が繋がっていく仕組みを作っています。

岩手でチャレンジしようとしている人、復興に向けて頑張っている人たちがいることを知ってもらう。その中で、若い世代の人たちにも、地元や岩手で暮らしていくことが一つの選択肢になってほしいという想いが込められています。

何事もリアルであれ

八田さんが担うのは、インターンシップのコーディネートです。実践型インターンシップは、1か月から2か月間の期間に様々なプログラムが組まれ、実践していきます。

「この期間って上っ面の関係だけだと、うまくいかないんですよね。学生とは、『本当に何がしたいのか、どんな経験を得たいのか』。企業側には、『学生と一緒に何をやりたいのか』ということを、腹を割って話すことを大事にしています。そこから、本気で一緒にやっていきたいという学生と企業を繋いでいくことが重要だと思っています」。

同じ想いをもつ人同士を繋ぐことに重点を置きながらも、お互いに「win」がある関係性を見出すことも、コーディネーターとしての一つの役割でもあると話す八田さん。

「なかには、学生に何ができるの?という考えを持っている人もいます。『学生を受け入れて、負担だった』と思われてしまったら、結果的に、若者が来るきっかけがなくなってしまいます。学生と一緒に取り組むことで、受け入れた企業にとっても、事業が一歩でも二歩でも進む。というところがないと続けられないですね。企業側も学生側にとってもバリューが大事だと実感しています」。

学生と企業のマッチングまでには、約一か月の間、様々なプロセスをふみます。企業側との打ち合わせや、エントリー希望の学生との個別面談。そこから深堀をしていき、それぞれの意思をしっかり確認したうえで、三者面談を行います。その後、双方合意がとれれば、見事マッチング成立となります。

「ここ最近はコロナ禍が影響し、できることが限られている中で、不安や焦りをもった学生の方がすごく多いなと感じています。『どうにかしていきたい』『とにかくインターンがしたい』という気持ちだけでくると、来ることがゴールになってしまうんですよね。でも企業側は、学生が来たことで、これから一緒に頑張っていこう!というスタートになるんです。
その温度差が発生しないようにしっかり話をして、ひも解いて、その人にとって何がベストなのかを考えています」。

必要であれば、一旦視野を広げてもらうために、色んな情報提供をして違う機会や、他のプログラムを紹介することもあるそうです。一人一人と真摯に向き合い、道筋は照らしながらも、最後は自分で決めてもらうのが、八田さん流。

それは、インターン期間中でも同じです。
「自分で調べる、自分で報連相をする、自分で仮設を立ててやる。自分で考えて決断することを身につけていってほしいなと思いますね。」
これから社会人になり、長い人生を歩んでいくなかで、様々な困難や壁に直面することがたくさんあります。そんな社会の厳しさや環境をリアルに体験してほしい。と八田さんは話します。

八田さんが大事にしている「リアルであること」は、学生のみなさんにも必ず伝えていることでもあります。

「説明会では、『僕らはお客さん扱いしません』と伝えています。世の中、やりやすいようにできていないのが現実。どういう背景があって、どういうチャレンジをしたいのかをちゃんと伝えて、ストーリーを見せるようにしています。セーフティーネット的な安心感はもってもらいつつ、暮らすことも働くことも、リアルに感じてもらうことで、今後の成長にも繋がっていくと信じてやっています」。

wizでは今まで、全国から岩手でチャレンジしてみたい学生を対象に、約400人ほど受け入れていきました。遠くは、沖縄県から参加した人も。関わってきた学生の中で、特に印象に残っているのは、「なかなか成果がでない……」と、苦しんで、もがき続けながらも最後までゴールをした学生だと言います。

その時のその世代、一人一人がどういうモチベーションなのか。どういう不安を持っているのか。「学生」という一つの括りにするのではなく、対一人の人間として、向き合って見ていくことが、難しくもあり面白いところでもあるそうです。

まずは自分が体現していくことで

最後に、今後の目標について伺いました。
「この仕事って、コーディネートという作業が難しいのもありますが、コーディネーターとして飯を食っていく難しさがあると思っています。wizに入った時に、印象に残っている言葉があって。
『自分たちがよれよれのシャツを着て、安い車に乗って、頑張って地方創生活動をしています!と言われても、それを見た若者が、自分もそうなりと思うか?』と。当時は、NPOはボランタリー精神や、稼ぐことよりも社会課題を解決してくこと。という認識でしたが、そこで覆りました。それが自分のなかで、大きく後押しになりましたね」。

何年か仕事をしてみて、家庭とのバランスや稼いでいく仕事にしていけるには、まだまだだと感じている八田さん。

「家庭を大事にして、仕事でもしっかり成果を出して、コーディネーターとして飯を食っていく。まずは自分たちが実践できていないと、若者たちに自信をもって、岩手で働く選択肢をもってもらうことができないなと思っています。そういう姿を、これから岩手を知る人たちや、これから関わってくれる人たちに対して見せていくことが、これからの目標でもありますね」。

まさに、八田さんが今まで経験してきたリアルがあったからこそ、出た答えなのだと思います。
正解がないコーディネーターという仕事だからこそ、一人一人にじっくりと向き合う。そして、「やりたい!!」という想いを繋げる。これからも八田さんはリアルを伝えながら、本気でぶつかっていきます。