学生が地域にかかわるきっかけ作りは、自分がやるべき仕事

学生が地域にかかわるきっかけ作りは、自分がやるべき仕事

今回、ご紹介するのは、「特定非営利活動法人TATAKIAGE Japan(以下、タタキアゲ)」でインターンシップのコーディネーターをしている森亮太さんです。コーディネーターのほかに、デザイナー、地域おこし協力隊として喫茶店の立ち上げなど、さまざまな活動をされています。忙しい毎日ですが「仕事は面白い!」のだそう。

そんな森さんが、どんな想いを持ってコーディネーターをしているのか。これから一歩を踏み出す学生に伝えたい想いを伺いました。

大学時代の一番の思い出は、いろんな大人に出会ったこと

岐阜県出身の森さんは、高校卒業後、京都の立命館大学に入学。大学時代は、授業や山岳部の活動、友達と楽しく過ごす、一般的な学生生活でした。

森さんの転機は、大学2年生のときに起こった東日本大震災でした。被災地に行って何かできないか考え始めたとき、森さんの住む関西方面からは、福島行きのボランティア便がないことに気がつきます。

「ないなら、自分たちで作ってしまおうって思って。バスを手配したり、大学の仲間に声をかけて福島に向かいました。訪問先の福島県いわき市や楢葉町では、足湯ボランティアや学習支援などをしました」。

設立メンバーの1人として立ち上げた団体は「そよ風届け隊」。
「被災地にそよ風のような心地よい風を吹かせたい」。そんな想いでした。

大学生活の後半は、ボランティアに明け暮れ、卒業までに8年もかかってしまったそうです。

「福島で出会った大人たちと話したり、生き様に出会うことがすごく面白くて。大学生活そっちのけでのめり込みました。それを聞いた大人たちは『ちゃんと大学は卒業しなさいよ』って。じゃあ、とりあえず卒業はしておこうかなっていう感じでした(笑)」。

偶然始めたコーディネーターの仕事

大学を卒業し、26歳で社会人1年目をむかえた森さん。「ボランティアでお世話になった楢葉町で働きたい」と、楢葉町の宿泊施設に勤務しました。清掃事業を担当していましたが、縁があって楢葉町の交流館「ならはキャンパス」のロゴデザインを担当。そこでデザインの奥深さに気づきます。

「このデザインは、何のため?誰のため?どういう目的がある?って、考えながらデザインをするんです。デザイナーという仕事自体が、今ある課題を解決するためにあるのだと、気がついたんです」。

デザインの面白さを知り、デザイナーへの転身を決意。宿泊施設を1年で退職しました。

「ある日、突然『仕事を辞めて、デザイナーになります!』ってFacebookで宣言したんです。それを見た知り合いが『デザイン会社で働いた経験がないのに、デザイン1本では生きていけないでしょ。だから、NPO法人で働きつつ、デザインの仕事をした方がいいよ』って言ってくれて。確かにそうだな、と。そのとき、紹介してもらったタタキアゲに1年契約で就職することになりました」。

タタキアゲでは、地域実践型インターンシップのコーディネーターをする人を探していたということで、インターン事業にかかわります。「最初は、インターンシップの存在さえ知らなかった」と話す森さんですが、1年間の契約を更新し、今もコーディネーターの活動をされています。

コーディネーターの仕事は、親のように支えること

年に2回、行われる実践型インターンシップ。一度に約10人の学生を受け入れます。その学生たちのインターン中のサポートを森さんが行います。

森さんのコーディネーターとしての仕事は、地元の協力企業を探すことから始まります。次にプロジェクト作り、学生の募集・面談。合格した学生のプロジェクト加入まで。さらに、滞在中の学生から毎日送られてくる日報もチェックし、都度返信します。学生にとっては慣れない生活が続くことで、起きる気持ちのアップダウンにも、気を配ります。

移動や住まい、生活の面、必要な身の回りのことなど、細々したことも多いのだそうです。

「コーディネーターは、親みたいだなと思いますね。子どもがいたら、こんな感じかなって。僕が一番にすべきことは、ここに来た学生が、最高のパフォーマンスができるようにサポートすること。そのためなら、なんでもする、という想いです。ここに来たからこそ、体験できることがあるんです」。

すれ違っても、気持ちは理解し合える

インターンに参加した学生が、複数人で同じプロジェクトにかかわると、うまくいかない場合もあるそうです。例えば、性格的にすぐ結論を出して進めたいタイプか、じっくり思考したうえで結論を出したいのか。

「人によって性格も考え方も違う。どの方法も間違いではない。お互いを理解し合い、歩み寄るきっかけを作るために、学生と一緒に話し合うこともあります」。

「人と人なので、うまくいかないこともあります。でも、みんな改善したい意識があるので、しっかりサポートすれば、最終的にちゃんとコミュニケーションできるんですよね。人のサポートは、難しいなと感じながらも、アンテナを張ってやっています」。

森さんの想いは「あくまでも、インターンの主役は学生」。
インターンを通じて、自分の得意・不得意、強さ・弱さに気づき、成長する学生。森さんは、我が子の巣立ちを見守る親のようにバックアップをしています。

学生が地域に飛び込んでみるから、できることがある

「僕が作っているのは、きっかけだけ」と語る森さん。
学生が、より良いパフォーマンスを発揮するために、できる限りのことをします。

「楢葉町には大学がないから、この町で暮らす大学生はいません。でも、こういう小さい町だからインターンで頑張る学生を、受け入れ企業だけではなく、まわりの大人も応援してくれるんですよね。地域にはない、最先端の感覚を学生が持っているから、町に与える影響も大きい。学生が持っている感覚は、地域が求めているものでもあるんですよ」。

地域を知る地元企業と学生の感覚のかけ算で、プロジェクトが想像以上に広がることも。いいプロジェクトが生まれた結果、学生1名が一般企業への就職、1名がフリーランスとなり、楢葉町、富岡町で働くことを決めました。

自分の「過去・現在・未来」を見つめてほしい

最後に、学生に伝えたい想いを森さんにお聞きしました。

「いつも『自分の過去・現在・未来は、ちゃんと見ようね』って伝えています。今のインターンシップの活動だけを考えるのではなく、今が終わってこの先、自分がどうありたいのか。自分の気持ちに向き合って活動してほしいんです。未来を見るためには、今までの自分を知ることが大切です。

そして、人から信頼してもらうためには、今までどんなことを考えて、これからどうしたいかが大事。『今が楽しい』。それだけだと信頼はしてもらえないんです。

学生時代は、今いる場所よりも多様で広い世界に出会えるきっかけはたくさんあります。でも、自分でアクションしないと出会えない。そんな貴重な時期に、いろんな大人の生き様や考え方を知ることはすごくいい経験になるはずです。インターンに来たならやりっぱなしに終わらせず、得た経験を会社につなげてほしいですね」。

――最後に
大学時代の多様な出会いに価値を感じる森さんだからこそ、伝えられる言葉なのだと感じました。「学生が地域にかかわるきっかけ作りは、自分がやるべき仕事」。
導かれるように、今は出会いを作る立場となっています。